特別養護老人ホームで死ぬということ

9月23日に、私が特別養護老人ホームの身元保証人になっている99歳の祖母が永眠しました。

両親が離婚している私にとって、母親代わりに私を育ててくれた、おばあちゃんには、感謝の気持ちでいっぱいです。

今はただ、安らかに眠ってほしいと願うばかりです。

 

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祖母は、川崎市内のある特別養護老人ホームで最期を迎えました。

 

人間は、自分で身の回りのことができなくなった時、誰かに介護をしてもらう必要があります。

介護を受け在宅で暮らすのか、決して安くない有料老人ホームに入るか、療養型の病院に長期入院するのか、特別養護老人ホームに入るのか、いくつかの選択肢があります。

 

祖母は2018年までは、私の父(祖母からみれば次男)と2人で在宅で生活していました。

97歳の時点でも、ゆっくり歩けば1人でトイレに行くこともできました。

しかし、2018年春に自宅で転倒して大腿骨を骨折、骨を補う金具を入れる手術は成功したものの、歩けなくなってしまいました。

 

手術した病院は本来は2週間程度しか滞在できない病院で、次を探さなければなりませんでしたが、経済的な問題に直面しました。

別の病院に転院して療養する場合、毎月20万円前後がかかると言われました。祖母がもらっている年金では大きくたりない料金であり、数ヶ月で済むのであれば無理をして出せますが、亡くなるまでそこの入るとなると経済的な見通しが立ちません。

しかし、在宅で暮らすということも、介護できる条件がなく難しい現実がありました。

 

予定をオーバーして病院に滞在、関係者で何度も話し合い、悩みに悩んだすえに、ケアマネージャーさんの紹介で川崎市内のある特別養護老人ホームに入所することができました。

 

私は現在はデイサービス(通所介護)で働いていますが、資格を取るために別の特別養護老人ホームで28日間ほど夜勤も含めて働かせてもらったことがあります。

 

その経験から、祖母を特別養護老人ホームに預けることは苦渋の選択でした。

 

祖母が入所した特別養護老人ホームは、事前に施設見学にも行きましたが、働いているスタッフの雰囲気も良く、丁寧なケアをしてくださる施設でした。環境も、面会に行く側からは交通が不便でしたが、入所している祖母にとっては窓から見える風景が自然にあふれており緑が見えて良い環境でした。

 

ただ、特別養護老人ホームで実習した経験からは、日本の介護保険制度では、介護スタッフの数が限られており、特別養護老人ホームという制度では、食事、入浴、排泄ケアをしっかりやってくれたとしても、入所者にとっては「退屈な毎日」になってしまうこともわかっていました。制度上、配置されるスタッフが少ないため、入所者とスタッフがゆっくりお話をする時間などは、ほぼとれないのです。安全だが、やることのない日々では、認知能力が低下することは避けられないと思っていました。

 

祖母は当時97歳で、大腿骨骨折のためリハビリをしたからといって入院前のように歩けるようになるのは難しかったとは思いますが、リハビリ専門の病院に入ればある程度は機能が改善した可能性もありました。特別養護老人ホームに入所すればベッドで寝ているか、車イスの生活になる、歩行訓練などのリハビリはプログラムにないため、歩くことを断念する結果になるという意味でも特別養護老人ホームという選択は心苦しいものがありました。

 

一方、特別養護老人ホームのメリットは、入居時に高額の入居金がかかることはなく(祖母の場合は契約時に5万円)、月々の支払いが誰でも同じではなく、所得、年金額に応じて支払う仕組みになっており、低所得者への支援が手厚い点にありました。

祖母の少ない年金でも、食事代や入居費、医療費を含めて十分に足りる料金で入居でき、逆に祖母の年金が入金される銀行口座には着実に少しずつ貯金が増えていくという点は、とても助かりました。

入所時は、祖母の預貯金は病院の入院費などがかさみ、ほぼ0円でしたが、入所している間に簡単な葬儀ができる程度の貯金ができました。

 

なお、余談ですが、これまでお世話になった方で、月40万円以上かかる、いわゆる「高級な有料老人ホーム」に入所した知り合いがいますが、その施設は設備が立派でスタッフの数はいるのに十分なケアをしてもらえず、ほったらかし状態で、不満があると言っていました。入所施設は、料金だけで質がき決まるわけではなく、よく現場を見て、スタッフの雰囲気や施設の運営方針の現実を見極める必要があります。

 

祖母は、2018年8月から今年9月まで、2年以上を特別養護老人ホームで過ごしました。

 

その施設は3階建てで、1階が比較的お元気な方、3階が重度の介護が必要な方が入所していました。

最初は2階の部屋でしたが、歩くことは難しくても元気だったので、すぐに1階に移されました。

面会にいくと、広間でテレビをみていることが多く、入所者同士の会話はほぼない(会話できるほど元気な方がいない)という状況でした。

 

数ヶ月で、それまで使ったことのなかった車椅子も、自分の手で車輪を回して介助なしに施設内を自分で移動できるようになりました。その適応力には驚かされました。

一方、予想通り、認知機能は低下していき、私(孫)と、自分の次男(私の父)を間違えていたり、会話が噛み合わなくなっていきました。また、なぜか急速に耳が聞こえなくなっていきました。

 

特別養護老人ホームに入所して、すぐ聴かれたのが、「もしもの時は病院で最後を迎えるのか、老人ホームで看取るのか」ということです。書面でサインも求められました。

私は、苦しんでいて痛みをとる処置が必要な場合には家族の承諾をとる前でもすぐに病院に運んでほしいこと、そうでなければ回復の見込みのない延命のための医療は希望せず特別養護老人ホームで看取るという希望を伝えました。

 

入所後は、朝、昼、夜と時間をとわず何度か施設から身元保証人の私に電話がかかってきました。

ほとんどの用件は、祖母が「転倒した」、「歩けないのに歩こうとしてベッドのそばに倒れていた」という事故報告です。

幸いなことに、そのことで大きなケガをしたことは一度もなく、介護スタッフの方には心配をかけて申し訳なかったのですが、入所から2年の間に、10回以上の転倒事故報告の電話がありました。

(他には、施設から書類関係の連絡や、保湿クリームや洋服等を買ってきてほしいという買い出しの連絡が何回かあり対応しました)

 

2020年春頃から、新型コロナウイルスが社会問題となり、祖母の入所している特別養護老人ホームも面会禁止となり、それまでは時々、会いに行っていましたが、まったく会えなくなりました。

 

2020年9月18日、あと2ヶ月で100歳になるという時に、特別養護老人ホームから連絡がり、「トイレに入っている間に容体が急変した。身体が硬直しており脳梗塞の可能性もある。強く呼びかけると反応はあるが会話はできない。眠っているような状態。」と報告があり、今までの転倒したがケガはないという事故報告とは違う深刻な状態であることがわかりました。

このまま回復しなければ、あと1週間ぐらいの命かもしれないということも伝えられました。

すぐに様子を見に行こうとしましたが新型コロナで面会はできないこと言われました。そして、実際にどんな様子なのか見ることもできないまま施設からは、予定どおり「特別養護老人ホーム」で死を迎えるのか、それとも病院へ緊急搬送するのか、選択が迫られました。

 

一般的には、もし脳梗塞であれば3時間から4.5時間以内に血栓を溶かす治療をすることができるかどうかが、その後を大きく左右すると言われています。しかし、祖母の場合は、99歳と高齢であり、検査をしても本人に負担がかかるだけで、原因がわかっても身体的に治療ができない可能性もありました。また、脳梗塞の場合、命を取り留めても身体の半分が麻痺して動かなくなるなど重い後遺症が残ることも少なくありません。

 

連絡をしてくれた看護師の方に、こういったケースは普通はどうしているのですかと聞いたところ、施設で看取るケースが多いとのこと。苦しんでいる様子はないとのことなので、祖母の2人の子ども(私の父と、長男)にも、病院に搬送せず特別養護老人ホームで看取るということで良いのか確認をとり、病院には搬送しないという選択をしました。

 

その2日後、特別養護老人ホームから連絡があり、新型コロナウイルスで原則面会禁止だが、最後だと思うので、5分間だけ、2人まで面会を許可するという連絡を受けました。

 

翌日、私と、私の父で、特別養護老人ホームを訪ねました。

いままで1階に居た祖母は、3階の個室にいました。

横向きで眠っており、声をかけても反応はありませんでしたが、身体に触れるとあたたかく、まだ生きているんだと感じることはできました。最後に会う機会をつくってくれた施設には感謝しています。同時に、病院と違って、その部屋には心拍数や血圧を測り表示するモニターや酸素マスク、点滴などはなく、病院での看取りに比べると寂しい環境だとも感じました。

また、この日の面会では、病院と違い特別養護老人ホームは医師が常駐しておらず看護師も日中しかいないため、祖母の夜間のたんの吸引作業は研修を受けた介護スタッフが行うことについて同意書にサインを求められました。

 

最後の面会を終えた後は、ただ待つ事しかできません。

その後は、なんともいえない日々が過ぎて行きました。

 

9月23日の早朝6:00、私の携帯電話が鳴りました。

ついに、その時が来たと思い電話にでると、朝5:45に巡回で確認したところ、心肺が停止しているようだ、これから医師を呼ぶので来てほしい。時間が決まったら再度電話すると告げられました。

 

ここでも病院と特別養護老人ホームでの看取りの違いを感じさせられる事がありました。

病院では、すぐに医師が死亡診断をおこないますが、特別養護老人ホームには医師は常駐していません。

祖母の場合、朝7:00ちょっと前に再度、施設から電話があり「医師が来るのが9:30〜10:00になるので、その時間にあわせて施設に来てほしい」と言われました。

9:20頃に特別養護老人ホームに到着、施設の別棟の部屋でベッドに横たわる祖母に会いました。

この前の面会と違い身体は冷たくなっていました。

その後、医師が到着。瞳孔の反応等を確認して、9:40に脳梗塞で死亡と診断されました。

厳密には病院で検査してCTを撮ったわけではないので脳梗塞だったかどうか、断定できないはずですが、死亡診断書には現在の日本の制度では「老衰」は認められなず病名をつけなければならないので、祖母の死亡診断書には「脳梗塞」という3文字が書き込まれました。

 

介護士や看護師では死亡の判定はできないため、実際の死亡時刻と、医師の到着・診断まで大きな時差があることはやむをえないことだと思いますが、病院ではなく特別養護老人ホームで看取るということは、こういった差があるのだと驚きました。

 

新型コロナ対応で葬儀は特別養護老人ホームが指定する葬祭業者のみに施設への出入りを制限しているということで、死亡診断の確定後は30分ほどで葬祭業者のお迎えの車が来て、祖母は特別養護老人ホームをあとにしました。おいそがしい中、祖母の介護にかかわった施設のスタッフの方が、たくさんお見送りに来てくださり、思い出話をしてくれた方もいて、よい施設に入って最後を迎えられ、祖母は良かったと思いました。

 

2年以上にわたり、祖母の介護をしていただいた特別養護老人ホームの職員の皆様、関係者の皆様、ありがとうございました。

 

今、日本政府は、医療費抑制のため病院での看取りを減らし、在宅や老人ホームでの看取りをおこなうよう政策的な誘導をしています。特別養護老人ホームでの最後を選択する人が増えています。

高齢者への回復の見込みのない延命措置はどこまでおこなうべきなのか、どのような形で死ぬことが人間らしいのか、本人の希望と家族の希望と費用負担の問題など、簡単に答えがでる課題ではありませんが、看取りのあり方について、社会的な熟議と情報共有が必要だと改めて感じました。また、特別養護老人ホームについても政治的には増設しようと数が問題になりますが、その介護サービスの質や入所者の生活の問題について予算の増額を伴う制度の見直し・人員配置を増やすなどの改善が必要だと感じます。現場の介護スタッフ・関係者の皆様が一生懸命に対応してくださっていることは間違いありませんが、現場の努力だけでは対応できない社会システムとしての課題があると思っています。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

JUGEMテーマ:社会問題

 

 

役に立たないアベノマスク(布マスク)が、また政府から長寿の家に届いた話。税金の使い方がおかしい。運営費の直接補助こそ必要。

私が代表を務める「デイサービス 長寿の家」に、あのアベノマスク(布マスク)が、また合計35枚届きました。

 

役に立たないアベノマスク(布マスク)が、また政府から長寿の家に届いた

 

介護保険事業者に「アベノマスク」が配布されるのは2回目です。

 

2020年3月下旬に第1回の「アベノマスク」配布があった記事は、こちらを参照

 

マスコミ報道では、第2弾の介護施設等への「アベノマスク」配布計画に対して批判が殺到、計画の見直しや備蓄に回すという話だったので、何の事前連絡もなく突然、2回にわけて届き、びっくりしました。

 

宅急便で届いた第2弾のアベノマスク

厚生労働省より、突然、ダンボール箱に入ったアベノマスクが送られてきました。

簡単な説明文1枚(前回と全く同じもの)が同封されていました。

 

もはや説明するまでもないと思いますが、通所介護の現場に「アベノマスク」(布マスク)は必要ありません。

私たちは、できる限り、新型コロナウイルスの感染のリスクを低減させたいと思っています。

各種の研究結果でも、布マスクよりは、サージカルマスク(使い捨て紙マスク)の方が、フィルターの性能が良く、衛生的であることが証明されています。洗って繰り返し使うということは現実的ではありません。

 

また、アベノマスクは大人用と書いてありますが、サージカルマスクに比べて小さく、前回、受け取って使用した職員は「子ども用ではないか」、「もっと立派なものがくると思ったら、給食で使ったマスクではないか」、「サイズがあわない」と不評でした。

 

アベノマスクとサージカルマスクの比較

写真の上側が今回届いた「アベノマスク」。下側が市販されているサージカルマスク。

 

 

安倍首相自身、アベノマスクを着用してアピールしていましたが、まわりの官僚や自民党幹部が布マスクを使わなかったことからも明らかなように、アベノマスクは政策的失敗だったのです。

 

しかも、これは首相のポケットマネーではなく、私たちの税金で作り、検査して、配送料や事務費を払って配布しているものです。こんな税金の無駄づかいはひどすぎます。

 

人間なので時には予想外の結果となり失敗することはありえると思います。

しかし、普通は1回やってみて失敗したら、計画を見直す、または、取り止めるのが普通です。

失敗を認めず、公金を使って2回目の配布を強行することほど愚かなことはありません。

 

今、デイサービス、地域密着型通所介護は大きな経営の危機に直面しています。

長寿の家の場合、大きな減収となっていますが、政府の新型コロナ被害の事業者救済策である‐絽贈横娃伊円の持続化給付金制度、家賃や駐車場代を支援する家賃支援給付金制度、および、川崎市独自の事業者むけ給付金10万円は、弊社の場合は基準をみたさず1円ももらえないことが確定しています。

 

アベノマスクに使うお金があるのであれば、介護事業所への直接の経費の支援に使ってください。

 

ちなみに、長寿の家では、希望するスタッフには在庫がある限り何枚でもアベノマスクを持ち帰って良いと伝えてありますが、1回使うと役立たないとわかり、継続した利用希望者がおらず、人気がなく、前回(2020年3月)に配布された分も余っています。

 

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